第16回 はるか中世から続く、巡礼の道‘エル・カミーノ’へ
スペインから戻って1週間
スペインから戻ってきたのは、先月末。留守にしていたこの数週間のうちに、エジンバラはすっかり春らしくなっていた。寒い日もまだあるけれど、水仙がいっせいにほころんで、風もいつのまにか、やわらかくなっている。
公園の芝生に腰を下ろし、ブランコで遊ぶ娘を眺めながら、これではスペインのほうが寒いくらいじゃないか、と思い出す。スペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラへ辿り着く手前のセブレイロ峠で、すさまじい吹雪に見舞われたのは、わずか1週間前のことだ。
いつか、きっと、と願っていた旅
5、6年前にパオロ・コエーリョの「星の巡礼」を読んで以来、サンチャゴ・デ・コンポステーラまで歩きたいと思っていた。ピレネー山脈を越え、はるか中世から多くの巡礼者によって踏みしめられてきた道、‘エル・カミーノ’。
西へ西へ、ひたすらに歩き続ける祈りの旅。
いつかきっと、そのうちに、、、
そう思いながら、気づくと妊娠をして、子持ちになって、フットワークの重たくなったのを理由に先送りにしていた。別にクリスチャンでもないし、幼児を連れて800kmを歩きぬくのは無理なことだし、第一、ふた月も休みがとれない。
車で!? それってズルじゃない?
ところが意外なことに今回は、夫たっての強い希望で、イースター(復活祭)の時期に合わせて‘エル・カミーノ’をドライブすることになった。ちょうど彼もここ数ヶ月、コエーリョの小説にはまっていて、「星の巡礼」を読みかけていたところだった。
でも、車で!?まわりが黙々と歩いているのに、それってズルじゃない?
四国のお遍路さんをチャーター飛行機で一日数ヵ所まとめて参拝するのと同類。歩く、という行為にイミがあるのであって、目的地に辿り着くのは二の次なのでは?
おばあさんになってからでは・・・
思わず大反対しようと思ったが、子育てから解放されて、数ヶ月間の休暇もまとめてとれて、すべてのタイミングが整うのをマジメに待っていたら、私は確実におばあさんになっている。
おばあさんになったら、歩くのはやっぱりきついからねえ、と腰をかがめて車に乗りこんでいるのかもしれない、などと言い訳を自分にしながら、彼の提案に素直に従うことにした。
ピレネー山脈を貫通するトンネルの中で
奇跡の泉ルルドを抜け、車はトールーズからまわり込むようにしてピレネーに入る。山脈を貫通するトンネルに吸い込まれると、かつては山越えに何週間もかかったという道のりが、わずか1時間ほどに圧縮される。
真空状態のような、トンネル内独特の振動と空気感に、娘がスースーと寝息をたてはじめ、そんなときは心地よく夫婦の会話が弾んだりする。
旅行中は、普段はしない話ができる。歯磨き粉はなぜ白いのか、とか、隕石の組成はどうして今だに解明されていないのか、とか、そんな意味のない、答えのいらない、せわしなさの微塵も無い夫婦の会話が許される。
(次回は、いよいよ祈りの道、エル・カミーノへ)
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木村章鼓(きむら あきこ)
ドゥーラ(産婦とその家族を支援する女性、というような意味)有資格者。
2年間の課程を修了し、SBTA(スコティッシュ・バース・ティーチャーズ・アソーシエーション)認定、産前産後教育者としてバース・リソース・センターにて、妊産婦向けの講座を受け持つ。 エジンバラ大学大学院 医療人類学修士号取得。UK在住。
スコットランドはUKの一地方であり、独自の文化をもつ。 面積はイギリス全体のおよそ三分の一を占める。ケルト文明の影響も色濃く伝説や神話が豊かに語り継がれている。
街角やレストラン、空港などで、タータンチェックの民族衣装(プリーツスカート)を身にまとったおじさまが、重そうなバグパイプを肩から下げ、のっしのっしと 歩く姿はスコットランドならではの光景。
エジンバラは街全体がユネスコの世界遺産にも登録されている。「UK」(United Kingdom=連合王国)は、イングランド、スコットランド、ウェールズ およびアイルランドから構成されている。詳しくは、スコットランド総領事館のHP もしくは英国大使館のHPをご覧下さい。
